80 みゆき
小学3年のトモくんは、同じクラスの浜くんとみゆきちゃんと
三浦さんと仲良しでした。
初夏のある日、放課後に4人で鬼ごっこをしました。
みゆきちゃんは足がとても遅くて、一度鬼になると、
ずっと鬼のままです。鬼ごっこを始めて30分くらい経ちました。
みゆきちゃんの鬼は続いていました。
なんだか、みゆきちゃんいじめのような雰囲気になってきたその時、
勉強もできて運動も得意な三浦さんが、いいました。
「みゆきちゃんは鬼ばっかだから、罰ゲーム!」
トモくんと浜くんは、何かが起きそうな予感がして顔を見合わせました。
三浦さんに逆らえる男子はクラスに誰もいません。
「罰として、みんなにあそこを見せなさい!」
三浦さんはきつい口調で命令すると、
あっというまに校舎の雨トイにみゆきちゃんを押しつけて、
浜くんにみゆきちゃんのパンツを下ろすように命令するのです。
浜くんは「みゆきちゃん、罰ゲームだからね」と震える声で言いながら
スカートの両端から手を入れると、
みゆきちゃんの木綿のパンツを膝まで下ろしました。
「みゆきちゃん、ちゃんと見せないと、またずっと鬼だよ」
容赦ない三浦さんの声に、
みゆきちゃんは照れたような笑いを口の端に浮かべて、
両手で水玉模様のスカートをおへそくらいまで持ち上げました。
「トモくんと浜くんは、ちゃんと見てあげないとダメ!」
三浦さんは、自分はみゆきちゃんの足元にしゃがむと、
二人に言いました。トモくんは、走り出したいのをこらえながら、
わざとゆっくり歩いて三浦さんの隣にしゃがみました。
浜くんは、もう、、みゆきちゃんの前に陣取っていました。
閉じられた太モモのすぐ上に、みゆきちゃんのあそこは、ありました。
ゆで卵に縦のスジを入れたような、つるっとした肌が、
日向にむき出しになっていました。
みゆきちゃんは、スカートを胸まで引き上げると、
「トモくんも浜くんも、ちゃんと見える?」と勝ち誇ったような
大きい声でいいました。トモくんは、傾いた日差しで、
みゆきちゃんのスジがクッキリと1本の影になっているのを
凝視しながら、喉がカラカラで上手く返事ができません。
「うん。ちゃんと見てる」トモくんが気づくと、
三浦さんは、いつの間にか投げ出してあったトモくんのランドセルの
脇から飛び出していたお習字の筆を持っていました。
「ふたりとも、よく見てるんだよ」三浦さんは、
またいつもの命令口調でいうと、筆の先をゆで卵に近づけると、
影になったスジを下からなぞるように動かしました。
「うふふふ」みゆきちゃんは、作り笑いのような不思議な声を出しながら、
膝を曲げ伸ばしして、ゆで卵を筆から、離そうとします。
浜くんは、これ以上大きくならないような目をして
筆の先から目を離しません。
三浦さんは筆の動きを続けながら、みゆきちゃんを見上げて言いました。
「みゆきちゃんは、嫌がってないからね、くすぐったいだけだからね。
ね?みゆきちゃん?」
「ふふふふ」みゆきちゃんは、不思議な笑い声をだしたまま、
膝を曲げ伸ばしするだけでした。
トモくんが、三浦さんの手から逃げようとしていると思った
みゆきちゃんのその動きは
なんだか筆を追いかけているようにも見えました。
トモくんは3人と別れて一人で家に向かう帰り道、
ランドセルから筆を取り出すと、辺りに誰もいないのを確かめると、
鼻先に持っていきました。
大きく息を吸うと、酸っぱいようなにおいがしました。
その後、みゆきちゃんは、4年生の終わりに分校ができて
そちらに移っていきました。
トモくんは、私です。
3年前に、同窓会で「みゆきちゃん」に会いました。
私は、彼女の姿を見つけましたが、そばに行って気まずくなるのを恐れて、
遠くから目の端に捉えたまま、別の人と話をしていました。
人混みで私を見つけると彼女は、足早に近よってきました。
赤ワインのグラスを片手に「みゆきちゃん」は、
顔がくっつきそうな近くに立つと、じっと私の目を見て、懐かしいわ、
とつぶやきました。
私は、余裕でほほえむ小柄な彼女から、
見下ろされているような気持ちになりました。
言うべき言葉が見つからずにワイングラスを口につけました。
ちょっと酸っぱいようなあの日の臭いがしました。 (線路の置き石)
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